甲田先生の鬼手仏心
症状や苦痛を訴えられた時、体操などを増やすのは優しさゆえ
西式健康体操にはそれぞれに効能というか生理機能を促す作用がある。だから甲田病院では入院患者が症状の苦痛を訴えると、処方箋の運動指示内容が増量方向で改定されたらしい。
すると入院患者の中で一つの共有認識がうまれたそうだ。甲田先生に安易に苦痛を訴えるよりも、現状の処方箋通りにとにかくしっかり体操や食事療法を頑張ろうと。
運動指示ノルマが増えるのは症状という問題を解決すべく、薬で症状を抑えるよりも根本的な人の自然治癒力を作用しやすい環境を整えたり症状が出てしまうまでに機能が減退している組織を鍛錬によって根本解決を成さしめるためであったわけだ。
例えば金魚体操である。
この体操をしっかりすることによって身体の左右軸に対しての緊張緩和を図るだけではなく、腸蠕動を補助して腸管内の内容物の偏りを減らす作用がある。偏りは便塊だけにとどまらず、ガスによる腸管内の内圧異常にも効果がある。
腸管内の内圧が高まり過ぎると苦痛を伴う。少しでも腸管内のガスが早く抜けるように考えるならば金魚体操や裸療法を活用するのが妥当だと効果を知っている者ならば気付く。しかし患者にとってそのような知識も体験も持ち合わせていないないのがあたりまえだと思う。
患者は苦痛を感じるから必死で助けを求めると、体操を増やされたと試す前に感じるわけである。しかし、甲田先生の指示により苦痛が緩和ないし改善される事を体験する事で体操の必要性や意味を理解するわけである。
ただ人間と云うものは、大抵が横着に産まれついているのではないかというほどに成長と共にものぐさになっていいく。体操の意味も効果も理解したとしても、だんだんと楽できる方法はないかと思考してしまう業をもつ。
よりやり易い工夫なら大歓迎
例えば体操補助用の機械の開発である。現に西式体操を補助してくれる機械は存在するし、毛管体操などは地力の方が筋トレ効果もあっていいと解っていながらも筆者も機械を活用してしまうことがしばしばである。
この様な方向の工夫ならば、横着が発心といえどもいいのではないだろうか。たださぼりや体操の効果をダメにしてしまう横着には甲田先生は叱咤激励で応えたようだ。甲田先生の凄いところはその場の叱咤激励にとどまらないところだ。人間の弱さを知っているがゆえに患者さんに電話をかけて様子を聞き、時に励まし時には叱咤激励するなど本当の意味で患者さんの生き方を励ますように二人三脚で医療行為をされていた点がすごい。
仏心から患者に寄り添い、患者の身体の事を思えばこそ厳しい指導をする。まさに鬼手仏心ともいえる甲田先生の生き様だ。電話での患者指導の逸話を聞いた時に、筆者は甲田先生の患者さんに対する本気が凄いと思った。
西式健康体操を考える
西式に存在する六大法則を調べると、1から6までの番号がふられている。
この1から6までの順番は、西勝造先生が寝ついて体力が低下した人が健康になるにはと考えてつけた順番であると筆者は聞いている。
寝たきりでも平床や木枕は使えるだろう。そういう意味で体操と呼べるのか解らないものが1や2として記される事になったそうだ。そして寝ながら体を動かし、手足を動かして体力をつけることでやがて座れるようになる6までを目指すわけだ。
6の背腹運動ができるようになると、身体はかなり強くなっていると思う。1分間に50~55往復のスピードで本運動を10分間は実行するのは結構大変な運動だ。体幹がしっかりしていないと身体を早く振ることはできないし、早く振るには身体を支えるだけの足腰もいる。完成形を実践できる頃には、確かに健康体であると言い張れるだけの身体は出来上がっているのではないだろうか。
各体操の目的と実践する時の工夫を自分なりにあげてみた。
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平床寝台
平らな板で寝ることによって、重力に下へ引かれる力で背骨の前後の歪をほぐすことを狙っている。また板であることによって肌と触れる接触面において、適度な加圧から末梢循環が軽く圧迫されることで循環が促進されれることも狙っている。末梢循環の改善から循環不良由来の緊張が緩和されやすくなる。
この緊張緩和と背骨の前後の歪改善を狙うわけだが、肉付き状態や一定姿勢による局所圧迫がかかり過ぎると床ずれのような状態になる可能性もある。ふつうは圧迫が過剰になってくると身動きするものではあるが、身体を自力で動かせない人(筋力低下や麻痺している人)などは要注意である。
また板であればダニや埃が溜り難い点から衛生的で、アトピー患者などにもよいとされている。個人的にはたまに水拭きかスチームクリーナーで拭くといいと思う。
師匠の鍼灸院で勤めている時に患者の失敗談をきいたのは、水洗いして天日干しを繰り返したら板が反ってきて困ったという笑い話があった。
注意点は、冬に板から体温を奪われ過ぎて体を冷やしすぎないように工夫する事が必要である。例としては、室温を上げる。板を温める。桐製の表加工された板を利用すると少しは保温効果が高い。などだ。
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硬枕利用
仰向けで使用する前提での枕である。枕に当たる頸でほとんど頭を支えることで、頭の自重でもって頸部に軽い牽引作用が働く。その結果くびの凝りが改善され、また枕の構造により頸部の生理的湾曲の補正並びに枕と接触する部位の静脈血の還流が促進されてより状態改善しやすい状況を作ることができる。
注意点は横向きで使った場合、枕が低いために頸部や肩の歪みを誘発する可能性が高いようだ。
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金魚運動
仰向けに寝転び、頭の後ろで手を組む。そして両脚を揃えてつま先を軽く返してふくらはぎに適度な緊張を促す。こうすることで床との接地点を肩甲骨付近、お尻、ふくらはぎの三点とする。この三点を接地点として、金魚の様に体幹を左右にうねらせる。
これは脊柱起立筋群などの背骨近辺の筋肉の緊張緩和と腸管へ疑似的蠕動運動となる。腸管を左右に振ることで内容物がある程度均一化されることで腸の膨満からくる腹痛を緩和または改善させることがある。
その効果は腸の疑似的蠕動運動だけでなく、背骨の左右の狂いを改善することが期待されている。身体を魚の様に小刻みに左右に振るもよし、大きく左右に振るもよし、または曲げやすい方向を中心に曲げながら最終的に左右均一に振れるように目指すのもいいだろう。
一説には、時間はかかったらしいが軽い腸捻転が改善したこともあるらしい。
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毛管運動
仰向けに寝転で手足を上に挙げることで血流を重力でもって体幹にふるい落とし、手足の末梢循環を中心に貧血ストレスを与える。手足を下ろした時の再還流によって貧血改善をすることで、血流改善並びに促進を図ることができる。またこの時の貧血ストレスによって、血管の代謝が促進されることで血管の若返りやグローミュー改善を図ることができる。末梢循環の改善によって静脈血管の最適化並びに血圧が改善されることがある。
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合掌合蹠運動
合掌とは手のひらを合わせた状態をいい、合蹠とは足の裏を合わせた状態をいう。手足の平を合わせた状態で手足を上下に動かすことで、肩関節や股関節を左右対称に動かす矯正運動とすることができる。大抵の人はそれらの関節周囲に偏りが出ているものなので、左右対称の動きで筋肉の状態改善と関節周囲の緊張や偏りを改善することは骨格や筋的な整形的な改善だけでなく内臓を含めた全体的な健康にも寄与する。
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背腹運動
背腹運動には準備運動と本運動の二工程がある。
準備運動
頸肩回りの循環を良くし、本運動時に困ったことにならないようにする為にも重要なものである。筋緊張を緩め循環を良くしておかないと、頭部に血液などが溜まり過ぎて脳圧が高くなる危険性がある。そうならないように準備運動にて事前に通りを確認し、または通りを良くすることで胴体へと還る様にしてあげるわけだ。本運動
体幹をメトロノームの様に1分間に50~55往復の速さで振る。この際に筋肉を使うことによって身体が交感神経優位に傾きすぎるのを、腹部の太陽神経叢(腹腔神経叢)を腹筋で刺激することで中和する。このことにより全身運動であるだけでなく、交感神経と副交感神経が共に刺激されて高まることで自律神経的にも鍛えられることになる。そして別名が頭の毛管体操ともいうこの背腹運動の本運動は、頭部の血流を促進させる効果がある。ある受験生の体験では、30分間は睡魔に襲われることなく覚醒状態を保つことができたとの体験談を聞いたことがある。
西式の体操を活用してみよう
骨格の矯正には
合掌合蹠運動と金魚体操や平床・硬枕をセットで活用するのがいいと思う。硬枕も頸が固いうちはとても痛く感じたり痺れを感じたりする。そんな時は短時間の使用を前提として、我慢することなく枕を二つ用意して頻繁に仰向けで硬枕を短時間使うことを心掛けるぐらいでいいと思う。
またこの時に腰臀部の硬さが背骨周辺の硬さと連動していることが多い。なので首だから硬枕や背腹の準備運動と決めつけてそれらだけを頑張り過ぎるよりも、まんべんなく身体全体を動かすようにしていった方が結果的に柔らかくなる。
循環促進や血管を鍛えたい時
循環を促進して血管を鍛えるには、毛管体操がおすすめだ。温冷浴や裸療法も取り入れるとさらに良いけど、裸療法と温冷浴では後者の方が刺激が強い。温度差が20度あれば良いと温冷浴は言われるが、交互に入ることで末梢循環と皮膚が反応する。この循環促進が澱みを改善するし、血管も伸び縮みすることで鍛えられる。
血管の代謝を促進することによって若返らせる方向性と、退化気味な末梢循環を身体に自覚させることによって血管新生を促す方向性。この2点が必要だと思う。血管新生を促すには、身体が毛細血管を必要だと認識させる必要がある。その為にはゆっくりなペースで、長めに歩くなどの刺激がよいとされている。
毛管運動も短めの取り組みよりも、1セットが長めのものがよいと思われる。逆に炎症を鎮めたい時などは、局部に振動が作用しにくいように配慮しながら短めの毛管運動を続けざまに複数回するのが良いと聞く。きりふき毛管などというらしいが、炎症部の浮腫みにたいして外圧が作用しにくいようにしながら循環を促進し、腫脹を改善しようというものだ。
習慣化が一番
日常生活の中に身体の鍛錬が苦にならない形で運動を取り入れて習慣化するのが良いと思われる。散歩の仲間を作って皆で賑やかに散歩を習慣化すると続くように、体操なども毎日が大変ならば週に何回か集まった時に仲間と共におこなうなどの形を考えるのもいいかもしれない。
そして身体を退化させないという点においては、西式にこだわる必要はない。
ただし無理な運動で鍛錬というよりもシゴキのような身体の再生が間に合わないや、運動の目的があやふやな運動をするのはやめた方がいいだろう。そんな時は大抵けがを伴うものだ。
西式を勧めるのは仰向けで行う体操が多く、転倒の恐れがすくないからだ。また軽い負荷で何度も単純動作を繰り返すスタイルも、身体への負担を考えると老いても習慣的に続けられる点がお勧めである。そして何よりも単純動作にあきがちではあるが、その単純動作であるおかげで身体の変化を観察しやすいというメリットもある。
単純な動作をどう観察するか?そしてその観察からどう身体を維持するのか。健康寿命は自身の日々の積み重ねが顕れるのだから、日々をいかに観察するのか、そしてその結果をいかに活用するのかを習慣化するメリットは高いだろう。
繰り返す行動の中に変化を見出し、その行動を最適化していく。筋肉の動きや関節の動き、重心の変化など観測すべき項目は多々ある。複雑な動きを観察しながら最適化できると一番いいのだが、それは難しい。単純な動作を先ずは観察し、身体の基本を理解すると応用が利くようになり出す。
その為にも自身を観察する内観を磨く必要がある。健康寿命と心身の理解は不二のものだと思う。